「ちょっ‥やだ‥やっ‥ぁ」 と身も世も終わりのように喘がせ、睦は今日も目尻に涙を滲ませる。 俺は無言のまま、その濡れた目尻の雫を舌で掬い取る。 「んんっ‥ふぁ‥ん‥」 そのまま少し肉厚な睦の唇に触れ、軽く吸い付くだけで奴は股間の辺りを震わせる。
(可愛いぃ〜 ちっこい癖にぷるぷるさせやがって‥ たまんねぇじゃねぇか)
到底男のものとは思えない桜色だし、俺の手の平サイズにぴったりだし‥。 おまけに半開きの唇が戦慄く様は、極上のエキスを溢れさせた絶品だ。
こうやってぎゅ〜って握り締めると、 「やっ! 聖ぃ〜 だめ‥やっ‥それやだっ!」 って目をうるうるさせて懇願してきやがる。 「どこが嫌だってぇ〜 ああっ‥さっきからふるふる蜜溢れてんだよ‥」 と口角を上げて、業と手の中で軽く扱く。 「あああっ‥聖ちゃん! やめっ‥て‥あっ‥あっん」 と睦の意外な一言で手を止めると、 「おいっ‥そのちゃんづけやめろよ‥」 思わず叱責する。 「だっ‥だってぇ‥カナイ様‥いつも‥呼んでる‥じゃん」 と睦が珍しく口答えしてきた。 「おまっ‥か、カナイ様はいいんだ! 大体一緒にする奴があるかっ!」 と怒鳴ると、行き成り手の中の奴の物が萎んでいった。 「‥‥まこと‥」 思わず呟きが出るくらいに睦の奴、肩を震わせて大粒の涙をポロポロ溢して‥。 俺はマジで焦った。 「どうしたんだよ‥なに泣いてんだ‥」 意気消沈している奴を後から腕の中に抱きしめて、頬摺りしながら優しく問う。 「うっ‥うう‥だって‥ちゃんは駄目って‥」 (あ〜あ、鼻水ずりずりで‥目真っ赤じゃん‥)
と呆れながら、 「まこと‥大体なんで‥ちゃんづけしてぇんだよ」 と拘る理由を聞いてみた。 「‥‥だって‥カナイ様がそう呼ぶと‥聖すっごい嬉そうじゃん‥少しは優しくなるかなって‥」 と言われ、これには絶句した。 「う、嬉そ‥うって‥なんだよ、それ‥それに優しくないだとぉ!」 と俺は思ってもみなかった事を突きつけられ、やたら焦り捲る。 おまけにべそを掻きながらも睦の奴、振り向いて恨めしそうに睨みつけてきやがった。 「だって‥ほんとにそうじゃん‥僕にはいつも意地悪な癖に‥」 と恨み言まで口にしやがって‥。 「どの口が言ってやがんだ! ああっ!」 と羽交い絞めして、唇を押し付け貪った。 「‥‥」 だが既に極上のエキスは一変して、最悪な不味さに成り果てていた。 やがて奴の反応の無さに、思わず唇を離した。 理由は一目瞭然だ。睦の奴のテンションが下がちまったから‥。 俺自身もなんだか脱力すると、後ろから羽交い絞めしていた戒めを解く。 そして目の前の睦に、 「あーあ、なんかその気が失せちまったぜ! なんか嫌々って感じだしぃ‥」 と暴言を吐くと、そのまま立ち上がった。 睦の奴、目を剥いてこっちを凝視してやがる。 「聖‥」 「そんなに嫌なら‥もうしねぇよ‥」 とヤケクソで呟いた。 「え‥」 一瞬奴の顔が綻んだように見えた。 カッと胃の腑が競りあがってくるように一気に熱くなった。 なんかムカムカする。 「ほら‥仕事に戻るぞ!」 と言葉を荒げる。 睦は肩をピクつかせると慌てて立ち上がり、乱れたシスターの服を直す。
(なんだよ! しねぇっつーたらあんなに嬉しそうにしやがって‥)
と心の中で悪態をついた。 それから暫らくは宣言通り、奴には指一本触れなかった。 とっくにアルバイト期間も終ってるし‥そろそろ潮時かも知れないなと思った矢先だった。 いつも通り黄泉の入り口に集まっている魂魄達を誘導していると、 延々と続く漆黒の世界を切り裂くような雷鳴が、辺り一面の空気を震撼させた。 慄き震え上がる魂魄達のざわめきに初めて体験する睦も恐怖し、体を強張らせる。 そして辺りを挙動不振に見回しながら、 「聖! なに? なんなの?」 と俺に縋るように胸倉を掴んできた。。 俺はそんな睦を心配ないと、そのまま抱き込んでやる。 すると続けて稲光が雷鳴とともに辺り一面を眩い閃光で煌々と照らし、睦は思わず目を瞑り顔を埋めると肩を震わせた。 「こりゃ‥地獄の亡者の脱走だな」 と胸の中で震える睦に教えてやる。 「え‥でもこの前も脱走したけど‥こんな変な感じじゃなかったよ!」 「ああ‥あれは雑魚だからな‥放っておいても黄泉の入り口まで辿りつけない」 「だが‥これは鬼神達からの警告だ! どうやら大物が逃げたらしい‥」 「ええ‥」 睦は雷鳴轟く警告音にすっかり怯え、体を小刻みに震わせる。 「お前は心配するな! 直に鬼神ども追っ手がやってくる。それまでこいつらを喰われないようにしないとな‥」 と宙を舞っている魂魄達に目をやる。 「く、喰われるって‥」 「雑魚だと出来ない芸当なんだが‥大物となると‥丸ごと喰らい尽くす」 「そ、そんな‥」 と口を戦慄かせて困惑する。 俺は辺りを見回して思わず舌打した。 今のこの状況では態々餌をばら撒いて、こちらに誘っているようなものだ。 それも宿業を纏った奴ばかりだが、全て地獄行きを免れた魂魄どもだ。 おまけに中には、生まれてすぐ生を全うした穢れのない赤子もいる。 亡者どもにすれば、紛れも無い極上の代物なのだ。 目の色を変えてでも手に入れ、喰らい尽くしたいに違いない。
(くそ! 今日に限ってやけに多いじゃないか‥ 睦の奴じゃ糞の役にもたたねぇし)
「仕方ない‥睦‥今から俺の言う通りにするんだ!」 と現状における最善の策を告げた。 「いいか‥俺は三体いる赤子の魂魄を守ってここで奴を迎え撃つ」 睦は小さく頷いた。 「お前はその間に、他の魂魄達をこの先の岩屋までつれていけ‥出来るな!」 これには大きく頷いて、 「で、でもそれって‥聖が囮になるって事?」 睦が目を潤ませて俺を心配する。
(おいおい、相変らずでっけー目だな。零れ落ちそうじゃん‥やっぱ可愛いよなぁ〜‥って場合かよっ)
こんな時に何考えてんだ! 一刻を争うと、すぐに魂魄達を呼び寄せ睦についていくように伝える。 魂魄達も危険に晒されているという危機感があったのか異議もなく直ぐに従った。 「じゃあー、聖‥気をつけてよ!」 と可愛く心配してきやがって‥。 「ああ‥いいから早く行け!」 と急かす。 睦は暗闇の中、青白く浮遊する魂魄達とこの場を後にした。
あれから何時経つのか‥。 なぜだろう‥それらしい気配が一向にない。 いつもなら反吐が出そうなくらいの禍々しい空気が辺り一面に漂ってくるというのに‥。
(なんか‥妙だ‥鬼神達の誤報とは思えないし‥どういう事だ‥)
と、いきなり暗闇の中から一陣の烈風が吹き荒れた。
「聖‥聖なのか?」 と吹き荒れる砂塵の中から聞き覚えのある声する。 容赦なく吹き荒ぶ砂に閉口しながら、目元に手を翳し声のする方へ目を凝らす。 暗闇にそこだけ照らすように光を配し砂塵が舞い上がる中、見知った顔の鬼神が立っていた。 境目など無いに等しい広大な地獄の地に、何故か東西南北の各部尉にそれぞれ見張り番として鬼神達が配置されている。 そしてそれを束ねているのが各部尉にそれぞれいる頭だ。 頭の風貌は、筋肉隆々の大男にして顔面は眉間の皺もくっきりと眼光鋭く、正に鬼の形相である。 現世ではその姿に似せて、金剛力士像と呼ばれ寺の守護神として崇められている。 「これは西部尉様」 と深々と頭を下げ、礼を尽くす。 「ふむ‥お前がここにいるという事は‥奴は通らなかったのか‥?」 「奴とは‥」 「先ほど知らせの雷鳴を放ったであろう‥非業の限りを尽くし、刑務所で撲殺されたジェフリーという囚人だ」 「‥まさか‥ジェフリーって‥あの‥っ!」 その名を口にして、俺は茫然自失になった。
瞬時に睦の事が脳裏を掠めた。 「ああ‥奴めいつの間にか力を付けおって、どうやら時々地獄を抜け出し魂魄を喰らっておったようだ‥ぬかったわ!」 「魂魄を喰らっていた‥」 と頭の言葉を反芻する。 「ああ‥奴めいったい何が目的でこんなところまで‥聖? そこにいるのは赤子の魂魄か?」 「ええ‥真っ先に襲ってくると‥」 ここまでの頭の話で、俺はある事に気がついた。 「くそっ!」 その重大さに思わず舌打し、睦に指示した岩屋へと身を翻した。 「聖! どうしたのじゃ!」 と後ろから呼び止める頭の声を今は一刻の猶予も無いと無視した。 ジェフリーは十数人にも及ぶ青年達を殺害し、死姦し、その肉を喰らったという異常な程の残虐性で犯罪を繰り返した。 地獄でもブラックリストの筆頭にいる前代未聞の性犯罪者だ。 地獄の番人さえも既に数え切れない程犠牲になっていると聞く。 簡単に地獄を抜け出し魂魄を喰らっていた奴が、何の為にここまで足を延ばしたか‥。 地獄の亡者や黄泉の街道を行く肉身の無い魂魄相手では満たされない性欲。 それも‥地獄の番人達の中にもいない飛びきりのご馳走を嗅ぎつけたという訳だ。 考えただけで身の毛もよだつ。 俺とした事が逃走した亡者の正体も確かめず、睦を危険な目に合わせてしまった。
(こんなことなら、どんなに危険でも傍に置いておくべきだった。魂魄を犠牲にする事など造作も無い事。睦に比べればどうでもいい事だ‥くそっ!!)
歯歪みして、己の馬鹿さ加減を罵る。
(今更後悔しても遅い‥こうなったら一刻も早く助けにいかなくては‥)
逸る気持ちからか‥駿足の筈の走りがやけに遅い! スローにさえ思える速度に苛立った。
いる筈の魂魄達の気配もない。 辺りの異様な静けさに息を飲んだ。 暗闇に緑の発光波長によって彩られた岩壁が見えてきた‥やけに静かだ。 霊所なる岩壁に出来た洞穴は、場合によっては長い道中を余儀なくされる魂魄達の安息の場となっている。 地獄を脱走した亡者達はこの神霊の岩屋には安易に近付く事は出来ない。 魂魄達の街道での道程は、早ければ半時で辿りつける者もいる。 が、大半は人間界で身に付けた宿業の重さで歩みが遅くなる。 それでも余程の事が無い限り地獄へ行く事はない。 しかし非合法だが地獄行き以外の魂魄が、全て辿りつけるかというとそうではない。 宿業が重くて中々辿りつけない者の中には、こうして地獄を抜け出す亡者どもの犠牲となる者もいるからだ。 そして俺達はその魂魄達を助ける義務はない。 あくまで通行書を確認し、行く先を示すだけだ。 そして場合によっては脱走した亡者達を追い祓うか退治することもある。 それさえも本来は鬼神達の任であり、俺達案内人の役目ではない。 人間界でさして悪業等していなくとも苦しむ人を見殺しにする傍観者や保身から無関心でいる心貧しい者、妬みや悪口など心卑しい者、善に反する心根事態が重き足枷となるのだ。 だから合法的でなくても、いずれ末路は地獄の亡者と課す運命なのだ。 そんな魂魄達とこの岩場まで非難するように命令したのは俺だ。 既に魂魄達は奴に喰われてしまったのかも知れない。 (睦は! あいつは無事なのか! くそっ) 焦る気持ちと状況が読めないこの不気味な静けさが絶望の淵へと誘う。 息を殺して、頭巾を被り闇と同化し気配を消す。
そして闇に目を凝らすと、緑に発光する岩穴の入口付近で何かが蠢いていた。 遠目からもくっきり目立つ細く白い物体がゆらゆらと揺れている。 その光景を目にした瞬間、 「ぐっおぉぉぉぉー」 と狂わんばかりの雄叫びで、俺は突進した。
ゆらゆら揺れているのは睦の裸体だ。 おまけにだらりと垂れている手足には生気が感じられない。 その光景に頭が一瞬にして真っ白になった。 ガッと見開いた目は緋色に血走る。怒りに我を忘れた。
一瞬揺らいだ奴の巨体を目指し突き進む。 「羅鬼丸!」 と呪すれば手の先より鈍い光を放ち、ニ尺三寸その切っ先も鋭く、瞬時に現れし斬魄刀・羅鬼丸(らきまる) 霊刀であり、鬼道、攻撃の能力はもとより相手の反撃を無効化する。 主以外が手にすればその身を焼き尽くすという厄介な代物だ。 その破壊力はいうまでも無いが、主である俺の怒りがその力を倍加させる。 「くそぉぉぉぉ、よくも‥ま・こ・とをぉぉぉぉおお」 天に轟き、地をも這う低く唸るその声音でその名を口にし、思わず食いしばる口の端から血が滲む。
((Get out of here!‥)) と僅かに人間らし言語を念で飛ばす。 「出ていけだとぉー」 と怒声を浴びせれば、抗戦するどころか醜悪にして醜貌なその物体は、散々喰い尽した魂魄の重さで身動きが取れない程鈍い動きになっていた。 「どこまでも強欲な! その報い受諾せよ!」 と俺は紅蓮の炎の如く、宙を舞い奴を真正面に捕らえると、 「斬!」 と呪文を唸り、渾身の力で斬魄刀を振り下ろす。 既に人の形も成さない亡者の成れの果てである黒い塊りは、真っ二つに裂け紅蓮の炎に包まれた。 その隙に傍に横たわる睦の白い肢体を腕に掻き抱き、タンっと地面を蹴るとその場を遠く後退く。 奴は燃え盛る焔に焼き尽くされ、砂塵を舞い上がらせ醜くのた打ち回ると、 「ぐっあぁぁぁぁ‥ぅぅ‥‥‥」 と断末魔を残し、辺り一面に飛び散った。
腕の中には暗闇に真っ白な裸体を晒した睦の見るも無残な姿があった。 かなり抵抗したのか体には無数の痣や擦り傷の痕がある。 その姿を目にした刹那、冷酷無比と仇名されるこの俺が胸に迫る込上げるなにかを必死に堪えた。 睦に顔を近づけ頬摺りすると、、 「睦‥ごめん、俺がドジ踏んだばっかりに‥こんな事になって‥すまない‥」 と言いかけてポツンと睦の頬に雫が落ち、泣いているのが分った。
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