笹倉といっしょに向かった先にいたのはフランス貴族の仮装らしい二人組。 「こんばんわ、もしかして‥茜ちゃん?」 俺もだが、その二人組みも笹倉の突然の呼びかけに驚いたようだ。
本当に茜さん‥なのか?
胸の谷間が際どい感じの派手な衣装はピンクの配色で目を惹いた。 縦巻きロールのストロベリーブロンドでかなり奇抜なカツラとマスクで目元と口元しか分からない。 横にいる連れの男は‥女性がマリーアントワネットなら、さしずめルイ十五世のような扮装でカツラとマスクでやはり人相がよく分らないが、長身の背格好からして‥まさか、藤堂? 「え‥もしかして‥笹倉さん?」 茜さんと思われる女性?は疑心暗鬼な声音で尋ねてきた。 この前嫌な客だと毛嫌いしていたが、そこはやはりプロ! 営業スマイルでしっかり対応している。 「やっぱり茜ちゃんか‥奇遇だね‥最近『バカンス』に行っても中々会えないと思っていたらこんなところに出没していたとは‥」 「そちらこそ隅におけないじゃないですか‥そんな綺麗な子連れて」 俺は二人の遣り取りを余所に、笹倉がこの二人の出現を待っていた事と余興の意図を関連付けていた。 急に射入るような視線を感じ、思わず見ると茜さんの連れの男とマスク越しに目が合った。 一瞬、心臓を鷲づかみされたようにドキリとする。
やはり藤堂なのだろうか‥。 俺の事『紫』ってわかったのかな‥。
だがその視線からは何も読み取る事は出来なかった。 「ああ‥やっと口説き落してね。珠にはこういう公の場にも同席させようと連れて来たんだ」 「まあ〜お安くないですね!」 すっかり世間話に興じている二人を静観しながら、俺の存在する意味を考えていた。
なんか‥‥俺的には、すっかり茶番だ。
「茜ちゃんだって、なに今日はこのまま同伴なの?」 「やだぁ〜、今日はプライベートなんですぅ」 この語尾の甘えた感じに延ばす辺りは間違いなく茜さんだ。 「へえー じゃあ隣の紳士はもしかして恋人?」 茜さんは隣の男に視線を流しながら、 「うふふっ‥ご想像におまかせしますぅ〜」 心なしか頬を染めて恥ずかしそうに答えた。
へえー やっぱ恋人なんだ‥。
そう思うとそれまで藤堂らしき男に対して注視していた気持ちが、なぜかどうでもよくなった。 「おやおや、お安くないのはそっちじゃないか‥これじゃ『バカンス』に行っても会えない訳だ」 「そんな事言っていいんですかぁ〜うちなんかで油売ってたら逃げられちゃいますよ」 茜さんはそう言うと視線を俺の方へと向けてきた。 「それは不味い‥誤解されて逃げられたら大変だ。絶対手放す訳にはいかないからね」 「うわぁ〜熱烈ですね」 茜さんは大袈裟に両手を頬に当てて笹倉の惚気に反応する。 笹倉の余興とは‥まさか俺を引き合わせる事がこの二人に対しての仕返しの心算だったのだろうか‥。
藤堂にはこの前のバカンスでの一騒動、茜さんは振られた腹いせ? 笹倉にしては、なんだか子供じみていないだろうか。
「ああ、今はこの子に夢中でね。つい独り占めするのが勿体ないと連れて来てしまったが、さっきから煩いハエどもにたかられて後悔している所だ。そろそろ退席しようか‥紫‥うん?」 そういって態とらしく俺を抱き寄せた。 その刹那、 「え? ゆ、か、り‥さん?」 茜さんは目を大きく見開いて俺を凝視した。 その瞬間、マックス鼓動が跳ね上がる。
まさか、俺の事、バレた?!
だが先日、兄貴が『紫』に客を持ってかれないようにと茜さんと話したと言っていた。 まだ紫が翔とバレた訳じゃない。
藤堂は? 奴は紫と聞いて、どうなんだ?
俺は無意識の内にマスク男の様子を窺っていた。 だが、なんのリアクションも無い。それどころか目線も合わない。 だが奴は微動だもせず、ただ一点を睨みつけるように凝視していた。 その視線の先にいたのは笹倉だった。 「なんだ知り合いだったのか?」 と、笹倉は分かっている事を敢えて知らない振りで俺に尋ねた。 「‥‥」 奴のこんな茶番に付き合う気になれず、俺は無言のままで返事をしなかった。 「ああ、ごめんなさい。お互い面識はない筈よ。以前『バカンス』の助っ人で臨時バイトしてもらった事ないかしら?」と茜さんが尋ねてきた。 「ああ、それなら間違いないよ‥紫とは『バカンス』で知り合ったんだから」 なんの意図があるのか笹倉はあっさり紫の事を暴露した。 「やっぱりぃ〜 その時紫さんを見たお客様が絶世の美人だったって‥本当だったのね」 そういうと茜さんは俺を上から下まで検分するように嘗め回した。 その間、隣のマスクの男は微動だもせず、俺と目が会う事は二度となかった。。 これで『紫』としっかりバレてしまった訳だが、藤堂にはなんら関心がないという事も分かった。 笹倉の思惑はこの前の煮え湯を飲まされた事への報復だったとしたら、とんだ肩透かしに終わったという事だ。 おまけに茜さんから袖にされた意思返しも兼ねていたのだとしたら、それも的外れだった。 俺を使っても何の意味もないという事だ。
これで俺への執着もなくなれば全て丸く収まるのだが‥。
「それじゃぁ〜 お先に失礼するよ」 奴は俺の肩を抱いて踵を返すとそのままドアの方へと向かった。 俺はなんとなくどうでもいい気分になっていた。
この焦燥感はなんだろう。
俺は本命の茜さんの前では藤堂に歯牙にもかけられていないという事実を知ったからだろうか。 たった一回寝たぐらいで、自分に執着してくれてるんじゃないかと思う方がどうかしている。 これが現実だ‥そして俺はこのまま笹倉に料理されるのか‥。
ちょっ なんでそうなる‥それは不味いだろ!
そう気がついて我に返った時‥。 既に奴が用意した最上階の部屋の前まで辿りついていた。
はやっ! なにこれ? 流されるのもほどがあんだろっ! 俺っ!
藤堂と茜の事でなんだか頭がいっぱいで、隣の男の存在をすっかり忘れていた。 自分で自分が情けない。 こうなったら茶番は済んだし、お開きにしてくれないかと話を切り出した。 「ねぇー 笹倉さん、余興上手くいったみたいだし、気も済んだだろ?」 「‥なんの話だ?」 そう言いながら笹倉は部屋のキーでロック解除すると中へと促した。 俺は僅かな望みでもまだ奴を思いとどまらせられないかと、 「いや、だからぁ あいつらに俺使って一泡吹かせたかったんだろう?」と真相を聞いた。 「意味がわからん」 「えっ?」 意外な言葉に俺は唖然とする。 奴は呆れたように部屋の奥へと入っていくと、ソファーの前のテーブルに部屋のキーを置く。 上着を脱ぎ、ソファーに無造作に投げると俺に近づきながらネクタイを緩めた。 「じゃあー 余興ってなにが目的だったんだ?」 俺は奴の真意を確かめるべく問い質した。 「ふん‥一緒にいた男が藤堂だと知っていたか?」 「ああ‥だからこの前の仕返しだったんだろ?」 「この前? ああ‥あの小競り合いか‥馬鹿馬鹿しい」
えっ? 違うのか?
茫然とする俺に奴はいとも簡単に事の真相を話しだした。 「君と今日過ごす事が最優先事項だ。たまたま、別件の用件が重なって‥パーティーに参加しなくてはいけなくなった。君を見せびらかしたかったのは本当だ。藤堂も参加すると人伝に聞いていたから、この際だから君の所有権が私にある事を知らしめたかっただけだ」 「茜さんは? あんたあの人の常連さんだったんだろ?」 「ああ‥利用価値があったからな‥」 「利用価値?」 「そうだ、あいつの実家は政界や財界人に顔が広い名門なんだ」 「実家がらみで色々情報が手に入った‥もう必要ないが」
うわぁー なに、なんかこいつすっげぇー策略家じゃん。
「あんな軽い女‥もとい男に興味はない。茜もきているとは意外だったな。そう言えば藤堂と出来てるらしいじゃないか‥所有宣言する必要もなかったな」 奴のいう事は本当だろ‥。その証拠にこんなに狡猾な男が事々く意趣返しが失敗して平然としていられる訳がない。失敗だと分かった時点で逆ギレだろう。 初めからその気がないから茜さんとの遣り取りも淡々としていたんだ。 そしてそれはまさしく俺の事が本当に最優先事項という事だ。 俺はその事実に背筋が凍りつく思いがした。 「それよりこの部屋はどうだ?今日の為に特別に用意したんだ」 「えっ?」 情交に及ぶことを阻止するのに必死で周りを見る余裕もなかった。 最上階のスイートは広く‥目の前に広がる夜景は悲しいくらい綺麗だった。 それに噎せるかえるようなこの甘い香りは‥あちこちに飾られた無数の深紅の薔薇。 確かに特別に用意されたと一目でわかるロケーションだ。
ここまでするか?! 男相手に‥。 俺‥。 ここまでしてもらう‥価値ねぇよ。 だってあんたの事、どうやっても好きになれねぇもん。
「今日は君との初めての日だからね‥ゆかり‥好きだよ」 最後のセリフに思わず胸が高鳴った。 藤堂でさえ口にしなかった言葉をいとも簡単にこの男に告げられた。 甘い囁きとともに頬に手を当てられるとそのまま貪るように口づけられた。 「んっ んんっ ちょっ」 今までのような生易しい口づけではなく舌を絡め、歯列をなぞられ、息つく暇もないまま口腔の隅々まで舌でなぞられ痛い程に舌を吸い尽くされる。 チュクチュクと唾液が混ざり合い無理矢理嚥下させられる。 笹倉がここまで尽くしてくれても、俺には押し付けでしかなく奴の独り善がりでしかない。 だがこうまで執着する奴の健気さが、俺を雁字搦めにし抵抗できなくさせる。 背中の際どいカットから手を差し入れられ、今日もラインを美しく見せるために装着させられたTバック。 俺の双丘は奴の手にすっぽり包まれ嫌らしく揉みしごかれる。 「いやっ‥んっ やめっ!」 「あぁ 本当にすべすべで気持ちがいいよ、紫のここはたまらないねぇ」 「可愛い唇も‥ほら舌を出して‥出さないとっ」 そういうと俺の双丘を掻き分けて秘所にいきなり指を差し込む。 「あぅっ」 俺はつぅーっとした痛みに慄き、仕方なく舌を恐る恐る差し出す。 俺の差し出した舌を奴の舌でゆっくり嘗め回す、出したままの状態の為厭らしく唾液が口の端から顎のラインを伝って垂れていく。それをまた舌でゆっくり舐めていき、辿り着く唇を舌を絡め、ちゅぱっと音をさせて吸い付く。 「可愛い 本当に可愛いなぁ〜」 「そろそろ君の胸も可愛がってあげないとね ほら手を出して」 俺は言われるまま両手を差し出すと、手首からドレスの袖を引っ張られ肩からすっぽ抜けるとあっという間に上半身の裸体が晒される。 そのまま両手を後ろに回され袖口を縛り、戒められる。 そして俺の両手の自由を制限したのを確認すると鎖骨からゆっくり舌で胸の突起まで辿っていく。 「あぁ やっぱり綺麗だぁ〜 乳輪がピンクでぷっくりしてて美味しそうだよ」 そう言うと奴は口に含み舌で転がす。 「あぁ んんっ くぅ」 俺は必死に声を殺そうとしたのに、たった一度経験とはいえ藤堂に開発されてしまい敏感に反応するようになっていた。 「声も可愛いぃ ほら、ここもこんなに尖らせて」 奴は執拗に舌で舐めながら反対の乳首を手の平で撫で回す。 いきなりつんとした痛みが胸の突起から走り、俺は思わず仰け反る。 奴が歯を立てて甘噛みしてきたのが分った。 「今日は一晩中ゆっくり可愛がってあげるからね ゆかり‥好きだよ」 「えっ? だめ!‥帰らないと!」 奴は口角を上げくすりと笑う。 「薫さんね‥喜んでたよ 一晩中勉強見てもらえるなんてって」 俺は奴の話で絶望的になった。 どうやっても逃れられないと分れば、一気にあきらめの四文字に支配された。 すっかり脱力してされるがままの状態で、奴に支配される部位が下半身に及ぼうとしていた。
プルルー、プルルー
いきなり室内の電話が鳴った。 たが笹倉は気にも留める事なく行為を続けた。 しかしコールは鳴り続け、止まる気配は無かった。 さすがに耳障りになってきて笹倉は、 「くそっ なんなんだ! つまらない用事だったらただでは済まないぞっ!」 思いっきり悪態をついて、中断し俺から離れると鳴り続ける受話器を乱暴に取る。 「もしもし‥ああそうだ! 川本ぉ‥ああ‥えっ? なんでここに! 分ったロビーだな‥そうだな五分後に‥ああ直ぐ行く」 ガチャンッと叩き付ける様に受話器を戻し俺の元に足早に戻ると、 「ゆかり‥すまない急用が出来た!」 俺は瞬時に解放されると喜びが湧き上がった。 隠す事なくそのまま顔に出てしまったようで‥すかさず奴は例の底意地の悪い面に一変すると、 「そんなに嬉しい? 残念!‥すぐに済ませて帰ってくるから‥待ってて」 そうしてチュッと軽く口づけしてきた。 俺はぬか喜びだった事に再び気分が塞ぐ。 「そんな顔しないで、一人置いていけなくなる。でも憂いを含んで綺麗だよ‥あぁ 忌々しい客だよ全く! すぐ片付けてくるからね‥そのままでいるんだよ、脱がせるのを楽しみにしてたんだから‥言付ちゃんと守れるね‥でないとおしおきだよ」 俺は最後の言葉にビクつく。 奴の鬼畜並みのおしおきは既に体験済みだ。わかったと大きく頷く。 奴は何度も振り返り念押しし上着を羽織りネクタイを結びながら部屋を後にした。 俺は腕の戒めもそのままソファーまで移動すると不自由な格好のまま座る。 このまま逃げ出せないかと無謀な考えが頭をよぎるがあまりに現実味がなくて却下。 精神的疲れから広いソファーにその身を委ね、取り合えず現実逃避でなにも考えず奴の帰りを待つことにした。 すると部屋を出で何分も発たぬ内にドアをノックする音がする。それもかなり乱暴に響き渡る。
っんだよ! なんか忘れものかぁ〜 鍵くらい持って出れよな!
悪態をつきながらも取り合えずドアまで近づいた。 内側から開錠といっても後ろでに縛られてたんじゃドアノブに手が届くかどうか‥
ドンドンッ ドンドンッ
「紫! いるんだろっ!」
え‥なんで?
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