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Majikaよ

第二一章 その三

 昨夜とは違う道筋の夜の帳の中へと車は走行する。
 ビルの谷間をぬって、対向車線を行きかうヘッドライトが時折眩しくて目を塞ぐ。
 行き先も告げぬまま無言で運転している藤堂に、
「どこ行くんですか?」
 と憮然とした奴の横顔に尋ねた。
「家だ」
「え‥家、ですか?」
 告げられた行き先が信じられなくて思わず聞き返した。


 なに考えてんだ! いきなり自宅かよ!


「生意気な口がきけるくらいにはなったようだな」
 相変らず意地悪そうな口調で俺と目線を合わせる。
 奴の言うとおり減らず口も叩けないほど意気消沈していたのは確かだ。
 俺は一応助けてもらった事を思い出し、
「さっきは‥・助けてくれて‥ありがとう」
 本意ではないので語尾は消え入りそうになる。
「‥無事でなりより」
 と素っ気ない一言で済ませられてしまった。
 元々兄貴目当てなんだ。何の興味もない俺の事などぞんざいに扱われても仕方がない。
 一応あの悲惨な状況からは救ってくれたのだから有り難いと思わないといけないのだろう。
 だが、このまま自宅まで連れて行かれても‥。


 こんな場合‥どんな事に注意したらいいんだ?


 ママからのアドバイスもないまま車は目的地に向かって見知らぬ夜の道をひた走る。
 俺はゆっくり走る車の程好い揺れと昨夜から続く騒動に精神的疲れがどっと出たのかついウトウトしてしまった。
「‥おい‥ついたぞ」
 遠くで聞こえるような奴の声で俺は覚醒した。
 すると助手席のドアが勝手に外から開けられた。

「‥」
 まだ半分寝ぼけ眼の俺にグレーの詰襟風な制服姿の若い男が恭しく頭をさげ、
「おかえりなさいませ」
 と開閉したドアの傍で挨拶してきた。
 俺は狐につままれたような感覚で、思わず辺りを見回す。
 そこは都心にある高くそびえ立つ高級ホテル‥。広いロビーの灯りも煌びやかに今まさに車から降車を促しているのは見たことのある制服姿のドアマン‥らしい。
「どうした‥早く降りなさい」
 ボーッとして中々降りようとしない俺に藤堂は痺れを切らして催促する。
「っ!」
 俺は今置かれている現状を把握するまもなく、チャイナドレスの裾を踏まないよう注意しながら降りる。
 昨日と同じ毛皮のコートで派手なドレスを隠し、取り合えず帰り支度はしてあったのでバッグも持参している。
 ただ、こんな高級ホテルのロビーをどう見てもお水としか見えない俺が闊歩していいんだろうか。
 先を行く藤堂の後を追うのを躊躇うように俺はその場から動けずにいる。
 奴はそれに気付いて引き返して来ると、
「どうした‥さっきまでの威勢は鳴りを潜めたか」
 と藤堂の皮肉も言い返せないくらい現実有り得ないシチュエーションにぐうの音も出ない。
「なんだ、こういうホテルも初めてとかじゃないだろうな」
 流石にここまで馬鹿にされると、
「これのどこが‥自宅なんだよ!」
 さっきのドアマンに聞こえないように小声で抗議する。
「ああ‥自宅は鎌倉だ」
「え‥」
「忙しくてな。帰る暇がない。それでホテル住まいだ」


 どんだけ仕事人間なんだー。


 呆れ顔の俺に、
「さあ〜 行くぞ」と奴はホテルに乗り込んで行く。
「さあ〜行くぞって‥ええ!」
 俺は奴に促されるまま後を付いて行った。

 勿論、豪奢なホテルロビーにそぐわない俺の格好は客達の好奇の的になってるようだ。
 奴はその状況を知ってか知らずか淡々と前を歩く。
 フロントでカードキーを受け取るとアシスタントマネジャーの名札をつけた長身の中年男が藤堂に声をかけてきた。
「藤堂様、お帰りなさいませ。失礼ですが、そちらのご婦人はお連れ様でございますか?」
 

 ご婦人って‥ 気を遣ってんの? それともマジ男とわかんねぇの?


 確かにロングの毛皮のコートで体型はすっかり隠してるし、メイクはばっちりだが‥。
 藤堂みたいに地位も名声もある男がこんな得たいの知れない同伴者連れって‥やっぱ不味いよな。
 戸惑っている俺とは違い藤堂は全く動じることもなく寧ろ怪訝な顔でマネージャーと対峙した。
「なにか問題でも‥」
「とんでもございません。防災における滞在の方の把握でございます。ご気分害されましたら申し訳ございません」
「ああ‥気にしなくていい‥それよりルームサービスはまだ頼めるかな?」
「はい、大丈夫でございます」
「じゃあ! 頼むようなら部屋から電話する」
「かしこまりました」
 一連のやり取りを終えるとエレベーター前で待つベルボーイが藤堂を見て一礼する。
 そのままベルボーイと一緒にエレベーターに乗り込むと、部屋の階も告げてないのにエレベーターは上昇しだした。
 部屋の階まで辿り着くとベルボーイに「ご苦労」とチップを渡した。
 彼は深々と一礼するとエレベーターのドアを閉めた。


 部屋までは案内しないんだ。 


 宿泊客だったら部屋までの案内なんだろうが、藤堂は住居代わりにしているからなのかと、どうでもいい事が気になった。
 だがそんな事は本当にどうでも良くて、もっと大事な事があった。
 なんで奴がここに連れて来たかという疑問だ。
 『ホテルの部屋』で短絡的にセックスに直結してしまうのもどうかと思うが、そんな自意識過剰や羞恥心とかを気にしている余裕はない。
 これではママの言う『お持ち帰り』の危機なのだ。どうにか回避する事を考えないといけない。
 俺はフロアーに人影もない事を確認すると、
「ちょっ! こんなとこ俺なんて連れてきて、大丈夫なのか‥」
 と、取りあえず難癖をつけてみた。
 奴はカードキーでドアを開錠すると、
「なにが心配なんだ?」
「いやっ! だからここって一流ホテルだろ‥俺、こんな格好だし‥マネージャーからも声かけられたじゃん」
 藤堂は不敵にも口角を上げ嘲笑すると、
「別に問題はない。マネージャーもそう言っていただろう?」と微動だもしない。
「あんたの手前そう言ってただけじゃん、内心じゃ、ラブホでもないのにって思われてるって!」
「なんだ、その気があるのか」と、奴は俺の目を覗き込むように揶揄う。
 とんだ藪蛇だ。
 俺はあくまで惚ける奴に変にムキになって、
「誰がっ! ちげぇーよっ!」と声を荒げてしまった。
「おいおい、こんな所で怒鳴り散らすな」
 奴は小声で制するとドアを開け、俺の肩をつかむと部屋の中へと引き入れた。
 なんか気が付けば、すっかりなし崩しに部屋の中まで連れ込まれてしまっている。
 バタンとドアが閉まると同時にカチャッと自動ロックの音がした。


 これって‥ マジやばくねぇ‥


 俺は奴と二人きりですっかり密室になった事に益々過剰に反応し体を強張らせた。
「ルームサービスなにか頼むか?」
 と、大人の余裕を見せられ、一人悶々となっている自分が馬鹿らしくなった。
 こうなったら単刀直入に聞くしかないと、
「別にいい‥ってかなんでこんな所連れて来たんだよっ!」
 藤堂の背中にその疑問をぶつけた。
 振り向いた藤堂は怪訝な顔面を歪ませ、俺の両肩を掴むと、
「用があるからに決まっているだろう!」
 と俺をそのまま壁にゆっくり押し付け、呆然としている隙に唇を重ねてきた。
「んっ‥んんっ‥やっ!」
 両手で思わず奴の胸を押しやり抵抗した。
 するとそれまで優しく掴んでいた藤堂の手は一変して急に強く押さえつけてきた。
「あの男にどこまで許したんだ!」
 さっきの余裕の口調は跡形もなく、鋭い藤堂の視線が真っ直ぐ俺を捕らえる。
「なっ! あんたに関係ないだろっ!」
 そうだよ! あんたは兄貴狙いなんだから、俺が誰となにをしようと関係ない。
「関係あるだろ‥契約違反だ! たかが口約束だと思って侮るなっ!」
「ちょっ、なんだよそれっ! 契約とか口約束とか意味わかんねぇー」
「昨夜、パトロンになってやると約束を交わしただろう」
「へ‥‥??」 

 
 ????クエスチョンマークのオンパレードだぜ。気は確かかよっ!


 藤堂は呆気にとられて茫然自失の俺に更なる追い討ちをかけてきた。
「昨夜は、手付けとして前儀までで済ませたが、今日は本契約だ」


  だからそれ何? 手付けって何? 本契約ってなんですかぁ?


 今、ここには頼みのママも静さんもいない。
 頭が真っ白の状態で思考回路はぶっ飛ぶ一歩手前。
 藤堂はそれから息もつけない程の濃厚なキスをしかけてきた。
 なにがどうなっているのかさっぱり意味不明、解読不能状態のまま事は更なる行為に及んだ。
 雪崩れ込むように抱き込まれたまま床に倒され、昨夜骨抜きにされた熱い口づけが貪るように繰り返された。
 俺の鼻腔を刺激する藤堂の甘いフレグランスに昨夜の行為が蘇える。
 甘く爛れた上昇気分はすぐに俺のものを熱くし、体の芯まで疼かせる。
 ほぼ無抵抗のまま奴に煽られ、きつく戒めのように首筋に落ちるキスの跡。その度に火が付くようなチリッとした痛みに声が上擦る。
 抵抗したいのに‥藤堂の手管にすっかり嵌められている。
 チャイナの深いスリットをたくし上げられれば容易く俺の双丘は藤堂の目に晒される。


 くそっ! やっぱこの流れかよっ!


「ガーターか‥色っぽいな」
「ここも触られたのか?」と藤堂の舌がラインを辿る。
「あっ‥ああっ‥やっ」
「どうなんだ?」
 と問い詰められ、声は喘ぎでしかなく俺は頭を振って否定した。
「はんっ! 嘘をつくな! あの時暗がりの中、お前の妙に白いこの尻が丸見えだったぞ! あの状態で奴がなにもしてない訳がないだろっ!」
 俺は思わず体をビクつかせる。だが、その行為が肯定する羽目になってしまった。
 核心を得た藤堂は益々不機嫌になる。
「何をされた? んっ?」
 藤堂はなぜかあの男との事を執拗に攻め立てた。
「聞かなくてもわかってんだろっ!」
 核心をついてきた藤堂に抵抗するように俺は毒づく。
「まあー、言いたくなければいい! お前から言いたくなるようにするだけだ」
「なっ! なんだよそれっ!」
「昨日の続きをするんっだよっ!」
「ひゃうっ‥うそっ!」
 藤堂はいきなり俺の双丘を掻き分けその蕾に舌をねじ込んできた。
「ちょっ! やめろよっ!」
「どうした? 気持ちよくないか?」
「あぁっ‥ぃやっ‥き、汚い‥んっ‥ぁん」
「そうか‥それにしてはお前のここは蜜を溢れさせているぞ‥」
 そう言ってTバックの前方へ進入してきた藤堂の手で容易く握られると、蕾に集中して強張っていた体がいきなり弛緩してしまう。
「そうだ‥力を抜いて‥もっと気持ち良くしてやる」
 俺のものを手の中で弄びながら尚且つ蕾も舌と唾液で解されていく。
 どんどん煽られて信じられない嬌声が漏れる。
「あんっ‥んんっ‥ぃやっ‥だ、めっ」
「可愛いな‥減らず口などたたかずその声を聞かせろっ!」
「う、うっせぇ!」
「なんだ‥言った側からそれか‥」
 今度は舌でなくもっと刺激の強いものが差し込まれ、
「あ‥なに? 嫌だっ! ぁあ‥んっ」
「嫌じゃないだろ! ほらここか?」
「あん、そこだめっ‥ぁあ‥ぁん」
 思わず赤面したくなるような鼻に抜ける艶声。
「いい鳴声だ、我慢できなくなりそうだ」


 うそだろっ なんて声だしてんだっ! 俺っ!


「そろそろ限界だ‥入れるぞ」
「っ!」


 っ、いっ‥てぇー!


「‥‥‥っ!」
 あまりの激痛に声にもならず悶絶一歩前だ。それは頭の芯まで走り抜けていった。
「うっ‥さすがにきっ、ついな!」
「やっ! やめっ!‥て」
 抵抗を口にする前にあまりの痛さに思わず息を呑む。
「息を止めるな!」

 
 んなこといったって! マジいってぇー 洒落になんねぇって!


 なぜか痛みを堪えるため浅く息継ぎを繰り返したのが功を奏したのか、やがて秘所の部分は麻痺し激痛はどうにか回避できた。
 だが痛みで気付かなかったが、二つ折りの窮屈な姿勢で藤堂の律動に合わせて揺れる俺の足先が目に入るとかなり滑稽で男として実に情けない格好なのに気がついた。


 なんでこんな事になってんだ‥あんなに抵抗してたのに!


 と、悔しい思いが頭を過るのに、欲情は別ものなのか。
 俺のものは藤堂の鍛えられた腹筋に挟まれ擦られ、下着越しにだらだらと蜜を溢れさせていた。
「ぁん‥あ‥あ‥ぁあ‥」
「どうやら気持ちよくなってきたようだな」
 奴は俺の律動に合わせたような嬌声にすかさず反応してきた。
 それがまた悔しくて声を漏らさぬよう唇を噛み締めた。
「噛むな! 血が滲む!」
 そういうと藤堂は滲んだ血を舐めるように口づけして舌を這わせる。
 甘い口づけは俺の抵抗など空しく、男同士であるからこそ分かる快楽の坩堝へと誘う。
 女性経験があるとはいえ、俺の経験値など藤堂の足元にも及ばないのは明白だった。
「いい‥あ、そこ‥んんっ‥あん」
 奴の張詰めたそれは絶妙なまでに俺の前立腺を擦り上げ、女では味わえない快感に身体が痺れるようだった。
 それをもっと欲しいと下肢の辺りに自然と力が入り、、
「うっ、こら、締め付けるなっ!」
 藤堂の焦るの声音に俺自身が妙に煽られた。
「ぁぁあああ‥いくっ‥だめっ‥い、いっちゃうよ!」
「こっちも‥いきそうだっ‥うっ、いいぞっ!」
「紫」


 ちがう‥俺の名前は‥   翔‥。


 藤堂の物が俺の中で一気に弾け注ぎ込まれる。
 俺は情けない事に、何もされないままあっけなく欲望を弾かせてしまった。
 

 頭‥‥       真っ白‥‥。


 床のジュータンに飛び散る欲望の跡。
 見るも哀れなチャイナドレスや昨夜以上に見る影もないTバック‥。
 体中が弛緩した状態で身動き出来ない俺は奴のものが内股に滴っていくのさえどうでもいいくらいに脱力していた。
 だが、つぎの奴のセリフで現実に引き戻される。
「続きはベッドだ」
 

 はいぃぃっ?   なんのご冗談でございますか? お代官様っ!


 そのままお姫様だっこされて、衝立の向こうのクイーンサイズの大きなベッドへと連行される。
 現実逃避しかかっている俺の思考回路は朦朧とし全裸にされている様子を他人事のように捉え、藤堂の鍛えられた肉体が顕になった時、お馬鹿にもその肉体美に目を奪われ思わず堪能してしまった。


 いい体だなぁ〜 腹筋割れてるしっ‥。 


 能天気にもほどがある‥。
 藤堂はゆっくり覆いかぶさり、小さな未開の胸の先端を口に含む。
 敏感になった俺の体はその刺激に仰け反り反応した。
「ここがいいのか‥」
 低音のささやきが俺の耳朶に響く。
「だめっ そこ‥やだっ」
「そうか‥ここがいいんだな」
 そう言うとその先を口に含み舐め上げ、押しつぶし、軽く噛まれ執拗に攻め立てられる。
 次から次へと性感帯を探り当てられ、抵抗する気持ちはその圧倒的な雄のフェロモンで抑え込まれ、手放すしかなかった。
 それからは快感の波にのまれ、成すがままに喘がせられ続け、やがて声も枯れるくらいに何度も絶頂を繰り返されお互いの体やシーツに恥ずかしいまでの痕跡を残して俺はそのまま意識を手放した。


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